東京高等裁判所 平成10年(う)2034号 判決
被告人 當眞徹心
〔抄 録〕
関係証拠によると、<1>被告人は、平成一〇年八月ころから、大工として稼働するのを辞めて、シンナーの密売人の手伝いなどしていたが、同月二二日午後九時過ぎころ、覚せい剤を貰いに新宿のウィークリーマンションへ行き、同所で貰った覚せい剤を右腕に注射して使用した後、その日の朝、大宮市内の内妻中村綾方へ帰ったこと、<2>被告人は、帰宅後右綾に対して、「お前、男が居て浮気してるだろう」とか、「盗聴器が仕掛けられている」などと、訳の分からない事を言い出して、責め立てるので、覚せい剤の影響を疑った同女が、「警察に電話して調べて貰えば」と言うと、被告人が、「分かった、一一〇番する」と言い、同日午前一一時一〇分ころ、電話で一一〇番通報をしたこと、<3>パトカーで警ら中の埼玉県大宮警察署の警察官らは、同日午前一一時一三分ころ、男女の喧嘩によるトラブルとの通信指令を受けて、被告人の住むアパート前に到着すると、迎えに出た綾から、「実は一緒に住んでいる男が覚せい剤を打って変になってしまったのです」旨説明され、二階に上がると、廊下に被告人が立っていて、「すみませんね」と声を掛けてきたので、一緒に室内に入り、「覚せい剤を打ったと聞いたが本当か」と質すと、素直に、「はい。昨日打ちました」と答え、「物はあるのですか」と尋ねると、「シャブはないですが、注射器はあります」と言って、テーブル上の缶を指差し、これを開けさせると注射器二本が入っていたことが認められる。
そこでまず、右の事情を前提に、自首の成否を検討する。
被告人は、当日、携帯電話から一一〇番通報をした際には、単に喧嘩をした旨告げたに止まり、覚せい剤を使用した事実を自ら警察に申告していない。この点について、被告人は、覚せい剤と縁を切りたいと思い、服役することも覚悟の上で警察官を呼んだが、内妻綾の里親が側にいたので、あからさまに覚せい剤のことを電話で申告するのはためらわれたと述べている。そして、臨場した警察官と被告人、綾とのやりとりの前記経緯にかんがみると、被告人の右言い分も、むげに斥けることはできない。そうすると、一一〇番通報して警察官を呼んだのは被告人自身であり、しかも、臨場した警察官が、出迎えた綾から事情の説明を受けたのと、被告人から覚せい剤使用の具体的事実を告げられたのとの間に、時間的間隔はほとんどなかったのであるから、本件については、被告人の自首があったと見ることができる。
したがって、原判決が、自首を認めなかったのはうなずけない。
(高木俊夫 久保眞人 岡村稔)